ED治療はお薬の処方だけではない!医学会作成のガイドラインから紐解くED診療

薬の処方だけではないED診療

EDの治療とは?

当院では、年間3万人近い患者様が受診されますが、その6割から7割が、ED(勃起障害)の相談です。 近年、「ED専門クリニック」と称するクリニックがあちこちで見られますが、その多くは、バイアグラなどの薬の処方のみ取り扱っており、中には、実質は診療を行わず、海外製の偽造品を販売のみを行なっている「自称クリニックの個人輸入業者」が存在するので注意が必要です。

ここでは、薬ばかりに注目されがちなEDという疾患ですが、そもそも「EDの診療とはどういうものなのか?」というお話をします。

医学会が作成したED診療のガイドラインがあります。

本邦におけるED診療の歴史は古く、1978年にインポテンツ研究会が設立され、その後日本インポテンツ学会、日本性機能学会と名前を変えて現在に至ります。約40年のED診療の発展の中で、シルデナフィルクエン酸塩(※バイアグラ)をはじめとするPDE5(phosphodiesterase5、ホスホジエステラーゼ5)阻害薬の登場は大きな転機でした。シルデナフィルは、本邦では1999年に認可、使用可能となり、EDという概念を含め広く一般にも認知されるようになっていきました。それに伴い、一般泌尿器科診療の場においてもEDを訴える患者への対応が必要となる機会も増加してきました。

日本性機能学会は日本泌尿器科学会と共同で、EDの診断から治療まで一般的なED診療の流れについて明確にまとめた「ED診療ガイドライン」を作成しています。ここからは、2018年1月に改訂され第3版となったED診療ガイドラインについて、概要を説明していきます。

どんな人がEDと診断されるのか。

まず、EDの定義とは、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか,または維持できない状態が持続または再発する」こととされています。

ここで重要なのは、EDが単に勃起時の陰茎の硬さや持続時間のみで評価されるものではないということです。患者さんご自身・パートナーによって、満足な性行為,十分な勃起の持続時間は、人によってそれぞれですので、受診された患者さんが、現状の性行為に不満や不安を感じている場合は、EDとして治療の対象と考えることになります。

EDの原因は多岐に渡ります。

ED診療ガイドライン第3版では、EDのリスクファクターとして以下の12の因子が取り上げられています。通常は、これらの複数の因子が混在しEDが発生している場合が殆どです。

  1. 加齢(一般的には、加齢とともにEDの有病率は上昇し、日本における中等度から完全EDの有病率は60歳台で40-60%、 70歳台では約70%とされる。)
  2. 糖尿病(糖尿病患者の35-90%にEDが発生するとされ、発生時期も非糖尿病患者に比較し10-15年早いという報告あり。)
  3. 肥満/運動不足(日本人を対象としたデータではないものの、肥満傾向はEDの悪化や、EDの改善しづらさと関連性があるとされ、運動不足のEDへの影響も報告が多く見受けられる。)
  4. 心血管疾患/高血圧(高血圧患者ではEDを合併する頻度が高く、治療を受けている高血圧患者の15%が完全EDであったと報告されている。一部の高血圧治療薬が原因で薬剤性EDが生じる可能性もあり、EDの原因が、高血圧そのものか降圧剤によるものか、判断が難しいことが多い)
  5. 喫煙(喫煙による血管内皮障害、陰茎への血流障害、交感神経刺激などがEDに影響すると考えられる。)
  6. テストステロン低下(男性ホルモンの一つ。これが低下すると性欲の低下や、勃起に関する神経血管海綿体組織の維持へ悪影響を与えるとも考えられる。)
  7. 慢性腎臓病/下部尿路症状=lowerurinary tract symptoms : LUTS
  8. 神経疾患(多発性硬化症、脳血管障害、てんかん、パーキンソン病、多系統萎縮症)
  9. 手術/外傷(外傷、手術による血流神経障害も当然EDの原因となり、前立腺摘出手術によるEDも、ロボット支援手術での神経温存など技術の進歩はあるものの、まだまだ不十分。)
  10. 心理的要素・うつなど精神的因子(心理的要因やストレスはED発生に強く影響し、うつ症状とEDの発生には強い相関がある。)
  11. 薬剤性(EDを発症させる可能性のある薬剤は、利尿剤、β遮断薬、Ca拮抗薬、抗うつ薬などが報告されており、泌尿器科領域では前立腺肥大症治療薬の5α還元酵素阻害薬が挙げられる)
  12. 睡眠時無呼吸症候群=sleep apnea syndrome : SAS(睡眠中に呼吸が止まってしまう病気がED発生との関連性を指摘されており、CPAPという装置を用いた治療によりEDの改善が期待されている)

EDの原因改善やリスクを見落とさないことが大切

ご覧いただいたEDの原因は、どれもEDを引き起こすだけではなく、健康や生活に多大な影響をおよぼすリスクであることがお分かりいただけると思います。ED治療薬は、「ED診療ガイドライン」においても第一選択肢とされ、勃起のための血流を助けるという効果が実証されているお薬ではありますが、こうしたリスクの根本的な治療とはなりません

また、EDは狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の発生に先駆けて自覚されることも多く、冠動脈疾患の独立したマーカーであることが知られています。こうしたリスクをED診療をきっかけにして見落とさないようにすることも大切です。

当院ではご希望に応じて、 EDの原因についての検査・治療など総合的な対応を行っています。

男性ホルモンの一種テストステロンや性機能に関わるホルモンバランスの検査をはじめとして、EDの精神的要因と関わりのある自律神経のバランスを計測する検査を実施、睡眠時無呼吸症候群の検査および保険診療による治療までも可能です。検査の結果、さらに専門的な治療が必要な場合には提携医療機関の紹介も実施しており、様々な対応が可能です。

当院のED診療について