前立腺の役割と病気 ─
前立腺肥大症・前立腺がん・前立腺炎の違い

前立腺の役割や各病気の違いについて解説

前立腺は男性特有の臓器であり、生殖や排尿における重要な役割を担っています。

しかし、「前立腺肥大症という病名は聞いたことがある」という方はいても、前立腺自体の位置や役割についてはあまり知られていないのが現状です。

また、前立腺肥大症以外にも、前立腺に悪性腫瘍ができると前立腺がん、細菌感染などで炎症が起きると前立腺炎など、前立腺の疾患は複数あり、しばしば混同されます。

前立腺は主に加齢とともに大きくなり、ある程度以上の大きさになると前立腺肥大症と言う病名で呼ばれ、排尿に関わる症状を引き起こすとされています。

また、前立腺炎が慢性化すると尿道炎のような痛みや不快感が長期間続くことになります。

前立腺疾患による排尿障害・神経障害は生活の質(QOL)を著しく下げてしまうため、できるだけ早く発見し、対応する必要があります。

今回のコラムでは、前立腺のはたらき、前立腺疾患の種類とそれぞれの特徴について網羅的に解説します。前立腺について理解を深め、ご自身の健康管理の助けになれば幸いです。

前立腺の役割と基礎知識

前立腺の大きさや解剖学的な位置

前立腺は男性の膀胱のすぐ下にある臓器で尿道を取り囲むように位置しています。

正常な大きさは「栗の実」くらいで、成人男性で約4cm x 3cm程度です。

前立腺の中身はみかんのような層構造になっており、その真ん中を膀胱から伸びる尿の通り道である「尿道」が通っています。また、精子の通り道である「精管」も、前立腺の内部で尿道と合流しています。

この位置関係により、前立腺が肥大することで「尿の出にくさ」「尿切れの悪さ」などの症状が現れます炎症が起きれば排尿時または射精時に「痛み」や「不快感」も生じてきます

膀胱のすぐ下に位置する前立腺は、その内部で精子と尿の通り道が合流しています

POINT 前立腺は膀胱直下にあり、内部で尿道と精管が合流している。成人男性における正常な大きさは栗の実ほど。

前立腺の生殖と排泄に関する役割

続いて、前立腺の役割を解説します。

前立腺には生殖と排泄に関わる機能があり、その主な働きは「前立腺液の分泌」と「排泄のコントロール」です。

前立腺液の分泌

前立腺の生殖機能における役割は「前立腺液の分泌」です。

前立腺液には、精子の運動能力を高める栄養素が含まれており、精子が酸性の膣内で生き残るのをサポートします。

精液の大部分は前立腺液と精嚢からの分泌液が混ざり合ったものであり、前立腺は男性の生殖機能において重要な役割を果たしています。

POINT 前立腺は精子に必要な栄養素を含む前立腺液を分泌する。

参考:日本泌尿器科学会 こんな症状があったら

排尿のコントロール

前立腺は「排尿のコントロール」における役割があります。

男性における排尿と射精の出口は一緒ですが、両者が同時に出て混ざってしまうのは避けなければなりません。

そこで、射精時には前立腺は収縮し、尿道を閉じることによって尿と精液が混ざるのを防ぎます。

つまり、前立腺の機能に問題があると、頻尿や多尿を起こしたり、ときには生殖機能に問題が起きたりします。

POINT 前立腺には「射精」と「排尿」で尿路を切り替える役割がある。

ここまでは、前立腺の位置や役割など基礎的な知識について述べました。

続いては、混同しがちな前立腺の様々な病気について見ていきましょう。

前立腺肥大症

前立腺肥大症とは

ガイドラインでは、前立腺肥大症を「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患」と定義しています。

つまり、何らかの原因により前立腺が大きくなり、尿が出にくくなる(排尿障害)病気のことです。

前立腺が大きくなるのには、どのような原因があるのでしょうか。

前立腺肥大症の原因・リスクファクター

結論からすると、前立腺肥大が起こる原因には明確なエビデンスはありません。

前立腺肥大症の主な危険因子は「加齢」です。

また、家族に前立腺肥大の人がいたり、ご自身が生活習慣病にあてはまる人は前立腺肥大のリスクが高いと考えられています。

前立腺肥大によくある症状をチェックしておきましょう。

前立腺肥大症の症状

前立腺肥大症の主な症状は以下の通りです。

  • 尿が勢いよく出ない
  • 尿が途切れやすい
  • 尿の回数がかなり多い
  • 力を入れないと尿が出ない
  • いつも残尿感がある
  • 夜、頻繁にトイレに起きる
  • 急に尿意をもよおす

前立腺が大きくなると、尿道を圧迫し、上記の症状が見られるようになります。

頻尿・尿閉(尿が出ない)・尿失禁(我慢できない)と、排尿に関するさまざまな症状を引き起こし、進行すると、日常生活にも影響が出ます。

前立腺肥大症は、基本的にゆっくり進むため、早い段階で自覚症状に気づくのは難しいかもしれません。

以下のような、前立腺症状のセルフチェックに使えるスコアシートを使い、排尿の状態をスコア化してみるのもよいでしょう。

国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score: IPSS)

前立腺肥大症の検査

上で挙げた前立腺肥大症の症状にあてはまる場合、泌尿器科を受診しましょう。

前立腺肥大症の診断のために必要な検査には、以下のようなものがあります。

  • 自覚症状の評価
  • 直腸診
  • 尿検査
  • 超音波検査
  • 尿流量検査
  • 残尿測定検査

この他にも、尿道から逆行性に膀胱にカテーテルを挿入し行う「尿量動態検査(圧尿流検査)」や排尿時刻やそのときの尿量を記録する「排尿日誌」などがあります。

また、前立腺肥大症を発症する人は「前立腺がん」のリスクも高いとされ、がんが進行した際の症状が前立腺肥大症と似ているため、がんの腫瘍マーカーの血液検査(PSA)も実施することが多いです。

前立腺肥大症の治療

前立腺肥大症の治療には、大きく分けて以下の3つがあります。

  • 薬物治療
  • 手術療法
  • 保存療法

それぞれの治療法の適応は、症状の強さ、および合併症・感染症の有無などによって決まります。

特に尿閉(尿が出ない)、血尿、尿路感染症がある場合には手術が行われることが多いです。

それ以外の場合は、薬物治療が中心になります。治療に用いられる医薬品は、前立腺そのものを徐々に小さくするものや、尿が出にくい症状を改善するものなどがあります。

一方、症状や合併症のない前立腺肥大症では治療の必要はなく、経過観察となります。

以上、「前立腺肥大症」と呼ばれる病気の症状や原因・治療法について解説しました。

続いては、前立腺肥大症との鑑別が必要な病気でもある「前立腺がん」について解説します。

前立腺がん

前立腺がんとは

前立腺がんは、前立腺肥大症と同様に加齢に伴い、リスクが高まる病気です。

加齢によるホルモンバランスの乱れなどにより、「前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖した状態である」と考えられています。

前立腺がんはゆっくりと進行するため、早期に発見できれば「完治しやすいがん」と言えるでしょう。

ただし、主に前立腺の外側(辺縁部分)から発生するので、自覚症状が出にくく、発見が遅れやすいのも特徴です。

前立腺がんは進行すると、骨に転移しやすいため、早期発見に努めることが必要です。

では、前立腺がんのリスクが高いのは、どんな人でしょうか。

前立腺がんのリスクファクター(危険因子)

前立腺がんのリスクとして注目すべきなのは「家族歴」と「食生活」です。

家族に前立腺がんの既往があると、前立腺がんが起こる可能性は2倍になると言われています。

また、肥満と前立腺がんの罹患リスクの関係が多く報告されており、脂肪の多い欧米型の食事が関係している可能性が高いです。

逆に、トマトに含まれるリコピンや大豆に含まれるイソフラボンが前立腺がんのリスクを下げるという報告もあります。

前立腺がんの症状

前立腺がんは早い段階では症状がほとんどありません。

ただし、病状が進行すると、前立腺肥大症に似た以下のような症状が出ます。

  • 排尿障害(前立腺肥大症と同様)
  • 下腹部に違和感がある
  • 尿に血液が混じる
  • 精液に血液が混じる
  • 腰痛がある

これは大きくなったがん細胞が前立腺の内部を通る尿道を圧迫するためです。

前立腺がんはゆっくり進行する傾向があるものの、徐々に膀胱や尿道にも影響を及ぼし、尿や精液に血が混じることもあります。

前立腺肥大とは異なる大きなリスクとしてはがん細胞の「転移」があります。前立腺がんは背中や骨盤の骨に転移しやすいことが知られています。

転移が進むと、神経を圧迫したり骨折を起こし、腰痛を起こします。

前立腺がんの検査

前立腺がんが原因で先ほど述べたような症状が出るのは、がんが進行してしまっている場合です。このような状態になる前に、定期的な検査を受けておくことが早期発見に繋がります。

スクリーニングのための検査

前立腺がんの検査では、まず前立腺がんの可能性をチェックします(スクリーニング検査)。

  • 血液検査(PSA)
  • 直腸診
  • 画像検査(超音波・MRI)

確定診断のための検査

スクリーニング検査でがんが疑われた場合は、前立腺の組織を採取し、細胞の検査をします(針生検)。

針生検の方法としては直腸から針を刺す方法と肛門と陰嚢の間から針を刺す方法があります。

前者は痛みがほとんどなく、麻酔の必要がないため日帰りでできますが、出血や発熱の可能性があります。

後者では発熱リスクはほとんどないものの、麻酔が必要で数日の入院が必要です。

病期診断のための検査

前立腺がんの診断がついた後は、CTやMRIなどの画像検査でがんの進行度を確認します。

がんの大きさや転移の広がりを評価するにはCTやMRIが有効です。

特にCTは前立腺周囲の組織だけでなく、肝臓や肺などへの遠隔転移の有無まで、広く全身のチェックができます。

MRIでは前立腺組織外や精嚢への広がりを評価するために有効です。

骨転移の有無を調べるために、骨シンチグラフィーを行うこともあります。

前立腺がんの治療

前立腺がんに対する治療法には、以下の通り様々なものがあります。

  • 手術療法
  • 放射線療法
  • ホルモン療法
  • 化学療法
  • 保存療法

がんの進行度に合わせて、上のような治療法の中を組み合わせて治療を行います。

前立腺がんの5年生存率は高く、特に転移の無い前立腺がん(ステージⅠ~Ⅲ)では100%とされています。

また、仮に転移が見られる症例(ステージⅣ)でも10年生存率は約65%と、他の部位のがんに比べると比較的高く、前立腺がんは根治治療が有効ながんの一つと言えるでしょう。

手術の合併症としては「性機能障害」と「尿失禁」があります。

性機能障害は主に「勃起障害」であり、どれくらい神経を温存できるかによって変わります。

妊娠を希望している場合は、神経を温存した治療ができないかを医師に相談することをおすすめします。

※5年生存率・10年生存率のデータは「2005-2008年診断症例」から

以上、「前立腺がん」の症状や原因・治療法について解説しました。

引き続き、「前立腺炎」についても解説していきます。前立腺炎は何らかの原因による炎症が前立腺まで広がっている状態であり、「急性前立腺炎」と「慢性前立腺炎」に分かれます。

急性前立腺炎

急性前立腺炎とは【概要・原因】

急性前立腺炎は、主に尿からの細菌感染による炎症が前立腺まで広がって起こります。

何らかの原因による免疫力の低下に伴い、感染が起こることが多いです。

急性前立腺炎の症状

急性前立腺炎の典型的な症状は以下の通りです。

  • 38度以上の熱がある
  • 倦怠感がある
  • 食欲が出ない
  • 下腹部に痛みがある
  • 尿が出にくい
  • 排尿時に痛みがある
  • 残尿感がある
  • トイレが近い
  • 尿が濁っている
  • 尿に血液が混じる

急性前立腺炎の症状は、急に強い症状が起こることが多く、症状が悪化すると、悪寒や筋肉痛、関節痛が出ることもあります。

急性前立腺炎の検査・治療

急性前立腺炎の診断は、「尿検査」です。

尿検査で細菌感染の有無が確認されると、細菌を殺菌または抑制するために、抗生物質による薬物治療が行われます。

症状がひどく、排尿できないケースや高熱が続くとき、前立腺内に膿ができてしまった場合は、入院が必要になることもあります。

また、前立腺肥大を併発している症例では、同時に前立腺肥大の治療を進めていくことになります。

慢性前立腺炎

慢性前立腺炎の症状

慢性前立腺炎の症状は、細菌性および非細菌性かによって異なります。

前者、つまり、急性前立腺炎の再発という形の前立腺炎では、急性前立腺と同じような症状が現れます。

ただし、その程度は軽い傾向があり、完全に症状がなくなる場合とそうでない場合があるとされています。

後者では、「下腹部の違和感」や「疼痛」が主な症状となることが多く、以下のような多彩な症状が現れます。

  • 排尿トラブル:血尿、頻尿、残尿感、尿道の違和感、尿漏れ、尿切れの悪さ
  • 痛みがある:腰、尿道、鼠径部、睾丸、足の付け根、太もも、肛門周囲、下腹部全体
  • 射精トラブル:射精時の痛み、血精液
  • その他:陰嚢のかゆみ、足のしびれ

ご覧いただいた通り、上記のような症状は慢性前立腺炎以外の病気でもよく見られるものであることがわかると思います。このような症状があってもはじめから慢性前立腺炎と診断されることはまずありません。

症状から疑われる病気の検査を行っても異常が無い場合や、他の病気の治療が終わっても症状が改善せず長期化する場合に、最終的に慢性前立腺炎という病名に行き着くことがほとんどです。

慢性前立腺炎の原因

前立腺における炎症が長期にわたって続いている状態です。

炎症の原因は細菌が原因のもの(細菌性)と、それ以外の原因によるもの(非細菌性)に分かれます。

細菌性のものは、急性前立腺炎の再発という形が多く、急性前立腺と同じ症状が現れます。その程度は軽い傾向があり、完全に症状がなくなる場合とそうでない場合があるとされています。

非細菌性の慢性前立腺炎の原因はさまざまなパターンがあり、下記のようなものが報告されています。

  • 性感染症・細菌感染治療後の後遺症
  • 骨盤内の血流障害
  • 自己免疫反応
  • 尿の前立腺内への逆流
  • ホルモン異常
  • 生活習慣の乱れ

静脈のうっ血や骨盤底筋の緊張、自律神経の乱れなど、さまざまな原因により起こるとされています。

具体的には、長時間のデスクワークや自転車・バイクの運転などによる圧迫や精神的なストレスが原因になる場合もあるようです。

慢性前立腺炎の治療

慢性前立腺炎における治療の中心となるのは「薬物治療」です。

慢性的な炎症を抑える生薬や漢方薬、痛みを和らげるために鎮痛剤や抗炎症剤、症状の不快感により睡眠や日常生活に支障が出ている場合は睡眠導入剤や安定剤などが処方される場合もあります。

ただし、慢性化した症状は治りにくい事や治療の効果を実感しづらい事が多く、症状が改善したかに見えても再発をくり返す傾向にあります。

下記のような生活習慣の最適化を試みながら、症状の緩和を図っていくケースが多いでしょう。

  • ストレスを緩和する
  • デスクワークなど骨盤の圧迫を避ける
  • 水分摂取量を適切に確保する

骨盤周辺組織の血流の悪化が深刻な場合などは、上記のような方法でもなかなか改善が見られないこともあります。

当院では、骨盤周辺の血流の改善や組織の修復と再生の促進のための治療方法もご用意しています。それが低強度体外衝撃波治療です。

慢性前立腺炎の衝撃波治療について慢性前立腺炎を根本から改善する治し方「衝撃波治療」について

まとめ~泌尿器科の受診について

このコラムでは、前立腺の解剖学的位置やはたらきなどの概要から、「前立腺肥大症」「前立腺がん」「前立腺炎」といった前立腺疾患の特徴について網羅的に解説しました。

前立腺は、膀胱直下に位置し、尿道を取り囲むように存在する臓器です。生殖や排尿に関するはたらきがあり、主に加齢に伴い大きくなった前立腺が尿道を圧迫すると、排尿障害などが現れます。

前立腺がんは血液検査で腫瘍マーカーを調べることで早期発見に繋がることがあります。

このように前立腺の疾患は複数あり、特徴はそれぞれ異なります。前立腺のことでお悩みでしたら、泌尿器科専門医にご相談されることをおすすめします。

当院の泌尿器科の診療受付時間

月~金曜13:3019:30

土・日曜お問い合わせください。

※尿検査が必要となる場合があります。排尿が可能な状態でご来院ください。

※祝日は休診です。振替休日がある場合はそちらのみ休診となります。

当院の泌尿器科診療について

・前立腺肥大症診療ガイドライン
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/08_prostatic_hyperplasia.pdf

・国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score: IPSS)
https://kyoto.hosp.go.jp/img/img/guide/medicalinfo/urology/ipss.pdf

・独立行政法人国立病院機構 京都医療センター|前立腺肥大症
https://kyoto.hosp.go.jp/html/guide/medicalinfo/urology/description06.html

・国立がん研究センター がん情報サービス|前立腺がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/index.html

・全がん協加盟施設の生存率協同調査|全がん協生存率
https://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/seizonritsu/seizonritsu2013.html

・メディカルノート|前立腺がん

・前立腺炎 – 03. 泌尿器疾患 – MSDマニュアル プロフェッショナル版

・Shin氏ら Dietary patterns and prostate cancer risk in Japanese: the Japan Public Health Center-based Prospective Study (JPHC Study) Cancer Causes Control
. 2018 Jun;29(6):589-600. doi: 10.1007/s10552-018-1030-3.