ED診療ガイドライン(第3版)によると、ED(ErectileDysfunction、勃起不全)という病気の定義は、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られない状態や勃起を維持できない状態が続いたり繰り返すこと」とされています(※1)。
日本国内のED有病者数は約1130万人と推定され,人口の高齢化に従って今後さらに有病者数は増えると予想されており、治療の第一選択は、バイアグラ🄬に代表される、PDE5(phosphodiesterase5、ホスホジエステラーゼ5)阻害薬です。
PDE5とは、陰茎海綿体の血管に豊富に存在する酵素の一種です。PDE5には、血管内のcGMP(環状グアノシンーリン酸)と呼ばれる物質を分解して不活性化(働きを鎮める)する働きがあります。cGMPには血管内のNO(一酸化窒素)と結びついて血管拡張させる働きがあるため、 このcGMPがPDE5により不活性化させられると 、陰茎海綿体とその周辺の血管が収縮し、勃起を鎮めてしまいます。
PDE5阻害薬は、このPDE5の作用を競合的に阻害します。これにより、cGMPの分解・不活性化を防ぎ、陰茎海綿体平滑筋細胞内のcGMP濃度を高めることで、陰茎海綿体平滑筋の弛緩させて血管拡張をもたらし、その結果、勃起を促進します。
日本国内では、バイアグラ 🄬 (一般名:シルデナフィル)・レビトラ 🄬 (一般名:バルデナフィル ※)・シアリス 🄬 (一般名:タダラフィル)の大きく分けて3種類の薬剤が使用可能であり、3剤ともに国内外で十分な有効性•安全性のデータが報告されています。日本国内で使用できる3薬剤に関して、発売順に特徴を説明していきます。
(※レビトラ錠先発品は日本国内における販売を中止しているため、後発医薬品のみの取り扱いとなります。)
シルデナフィルは、世界で最初に臨床応用されたPDE5阻害薬です。内服後30分から60分で効果を発揮します(※2)。ファイザー製薬から販売されたシルデナフィル、世界初のED治療薬こそ、皆さんがご存知のバイアグラ🄬です。
ファイザー製薬のバイアグラ (先発品)は、アメリカ合衆国では1998年から、日本国内においては1999年から販売が開始されており、2016年には舌の上で溶かして服用するフィルムタイプの口腔内崩壊フィルム製剤バイアグラODフィルム🄬も新しく発売されています。
バイアグラ🄬の販売は、2021年9月にファイザー製薬から、ヴィアトリス製薬に移管されました。パッケージに印字されている会社名も「Pfizer」から「VIATRIS」に変更となっています。ヴィアトリス製薬は、ファイザー製薬の特許切れ医薬品や後発医薬品事業を担う「ファイザー アップジョン合同会社」が前身のため、会社名以外が大きく変わることはありません。
なお、バイアグラは日本国内では2014年に特許が満了となりました。これにともない、日本国内の複数の製薬会社からバイアグラのジェネリック医薬品であるシルデナフィル錠が発売されています。
シルデナフィルの有効性を表すエビデンスについては、多数の論文が存在します。以下にその一部をご紹介します。
3,000名以上のデータが集積された、11の無作為化比較試験(RCT)を検討した論文(※3)によると、その試験の中で行われた「包括的評価のための設問(GAQ、Global Assessment Question)」 の一つ「この治療により、あなたの勃起は改善しましたか?」による評価では、12週の試験期間で“はい”と答えた患者の割合が、偽薬を服用したプラセボ群は22%であったのに対し、実際の薬剤を服用したシルデナフィル群では76%であったことが示されています。
安全性の面に関しても、心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気の発現率の調査では、プラセボとの二重盲検試験(シルデナフィル群6,896 名、プラセボ群5,054名)とオープンラベルの試験(10,859名)とを合計した結果、心筋梗塞の発生率は、1年間にシルデナフィル群で0.58%、プラセボ群で0.95%の患者に発生し、有意な差がありませんでした。また、総死亡率もそれぞれ0.37%、0.53%患者年と有意差がありませんでした(※4)。
日本国内での臨床試験でも海外と同等の有効性と安全性を示し、1999年3月に日本ではじめての勃起不全治療薬として発売されました。
国内における臨床試験は1997年2月から1998年1月に29の施設で、プラセボ群64名、25mg群65名、50mg群60名、100mg(未承認用量)群67名に試験を行い、改善率は、プラセボ(偽薬)群が被験者のうち15%であったのに対して25mg群が58.3%、50mg群が72.4%、100mg群が72.3%でした。
副作用は、頭痛(プラセボ群2名、25mg群4名、50mg群10名、100mg群6名)、ほてり(プラセボ群2名、25mg群3名、50mg群12名、100mg群10名)、視覚異常(プラセボ群0名、25mg群0名、50mg群2名、100mg群9名)で、重篤なものはありませんでした。
なお、バイアグラ(シルデナフィル)の規格のうち100mgの容量のものについては、臨床試験の段階では試験されていますが、日本国内における処方は認可されていません。海外では認可されている国もありますが、国内では50mgが最大容量となります。
当院では、今回ご紹介したようなED治療薬の処方はもちろん、衝撃波で血管の新生を促しEDを根本から改善する方法や、再生医療の一環である幹細胞培養上清液治療、陰茎海綿体自己注射など様々な治療法をご用意しています。
さらに、EDの原因についての検査・治療など総合的な対応を行うことも可能です。
男性ホルモンの一種テストステロンや性機能に関わるホルモンバランスの検査をはじめとして、EDの精神的要因と関わりのある自律神経のバランスを計測する検査を実施したり、睡眠時無呼吸症候群の検査をして必要な場合は保険診療による治療を実施したりできます。検査の結果、より専門的な治療が必要な場合には提携医療機関の紹介も実施しており、様々な対応が可能です。
(1)日本性機能学会,日本泌尿器科学会編:ED診療ガイドライン第3版リッチヒルメデイカル.東京,2017
(2) Eardley I. Ellis P, Boolell M, et al : Onset and duration of action of sildenafil for the treatment of erectile dysfunction. Br Clin Pharmacol 53: 615. 66S, 2002
(3) Carson CC. Burnett AL, Levine LA, et al : The efficacy of sildenafil citrate (Viagra) in clinical populations : an update. Urology 60 (Suppl 2): 12-27. 2002
(4) Padma-Nathan H, Eardley I. Kloner RA. et al : A 4-year update on the safety of sildenafil citrate (Viagra). Urology 60 (Suppl 2) : 67-90, 2002