早漏治療薬ポゼット®(ダポキセチン)の効果・副作用を専門医が解説|大阪梅田紳士クリニック

「性行為の時間が短く、パートナーとの関係に悩んでいる」「早漏を改善したいが、どんな治療法があるのか分からない」このような悩みを抱えている男性は少なくありません。実際、日本性機能学会の全国調査では、早漏(PE)で悩んでいると回答した割合が23.4%にも上ることが明らかになっています。

早漏は決して珍しい症状ではなく、適切な治療によって改善が可能です。本コラムでは、海外で早漏治療薬として承認されている「ポゼット®(ダポキセチン)」について、専門医の立場から、臨床データに基づき解説します。

早漏(PE)とは?どのような症状か

早漏(Premature Ejaculation: PE)とは、性交において射精のコントロールが困難で、本人あるいはパートナーにとって不満足な性交となる性機能障害です。国際性機能学会(ISSM)では、「最初の性体験から常に、またはほぼ常に膣への挿入前または挿入後1分以内に射精が起こること」を生涯型早漏(lifelong PE)、「射精までの時間が臨床的に有意かつ本人にとって困難なほど短縮し、通常は約3分以内となる状態」を後天型早漏(acquired PE)と定義しています。

早漏は単に「時間が短い」というだけでなく、苦痛、欲求不満、性的親密さの回避など、性生活に悪影響を与えるものとして捉えられています。日本では早漏で悩んでいると回答した男性が全体の約23%、ISSMの基準に基づいた評価では生涯型早漏が0.5%、後天型早漏が3.5%と報告されており、多くの男性が何らかの形で射精時間に関する悩みを抱えていることが分かります。

ポゼット®(ダポキセチン)とは何か

ポゼット®の有効成分はダポキセチン塩酸塩で、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の一種です。SSRIは本来、うつ病や不安障害などの精神疾患の治療に用いられる薬剤ですが、ダポキセチンは短時間作用型という特徴を持ち、性交前に頓服することで射精時間を延長させる効果が認められています。

海外での承認状況と日本での位置づけ

ダポキセチンは欧州を中心とする諸外国で「早漏症」の治療薬として正式に承認され、実臨床で使用されています。臨床試験では、膣内射精潜時(IELT)が平均して2.5〜3倍に延長することが示されており、有効性が確認されています。

一方、米国FDAでは「効果の大きさが限定的」「迷走神経反射に起因する失神など安全性に関する懸念」「長期データ不足」を理由に承認されませんでした。また、日本国内でも現時点で正式な承認はなく、一般診療での標準治療薬としては使用できません。当院では倫理審査承認のもと、観察研究として安全に実施しています。

ポゼット®の効果と科学的根拠

射精潜時の延長効果

国際共同第III相試験のメタ解析によると、ダポキセチン30mgおよび60mgの使用により、プラセボ(偽薬)と比較して有意にIELTが延長し、患者満足度の改善が認められています。具体的には、服用前と比較して射精までの時間が2.5〜3倍程度延長するという報告があります。

複数のSSRIの効果を比較したネットワークメタアナリシスにおいても、パロキセチンやセルトラリンといった他のSSRIと並んで、ダポキセチンは早漏治療において有効性が示されています。

他のSSRIとの違い

一般的なSSRI(パロキセチンなど)が毎日内服する長時間作用型であるのに対し、ダポキセチンは短時間作用型であり、性交の1〜3時間前に頓服するという使用方法が特徴です。これにより、副作用の持続時間を短くでき、必要な時だけ服用できる点が大きな特徴です。最高血中濃度到達時間(Tmax)は約1〜2時間で、この頃に効果が最大となります。

ポゼット®の使用方法

服用のタイミングと用量

  • 服用タイミング: 性交の1〜3時間前に頓服(実臨床では「性交の2時間前」を目安にすると分かりやすい)
  • 用量: 通常は30mgから開始し、効果不十分な場合は60mgまで増量可能
  • 服用頻度: 1日1回まで(次回服用まで24時間空ける)
  • 食事の影響: 食事の影響は少ないが、大量飲酒は避ける

初回は必ず30mgから開始し、副作用の有無を確認することが大切です。

併用療法について

ダポキセチンは、勃起不全治療薬であるPDE5阻害薬(バイアグラ®、レビトラ®、シアリス®など)との併用が理論的には可能です。薬物動態的な相互作用はほぼありませんが、PDE5阻害薬による血管拡張作用とダポキセチンによる迷走神経反射が相加的に作用し、めまいや失神のリスクが増大する可能性があります。

そのため、初回は同時服用を避け、それぞれ単独で副作用の出方を確認した後、慣れてから「ポゼットを性交2時間前、PDE5阻害薬を1時間前」というように時間をずらして服用する調整が勧められます。

ポゼット®の副作用とリスク

主な副作用と発現頻度

臨床試験において報告されている主な副作用とその頻度は以下の通りです。

  • 吐き気(悪心): 10〜20%(最も多い副作用)
  • 下痢: 5〜10%
  • 頭痛: 5〜10%
  • めまい・失神: 0.2〜0.6%

これらの副作用は、特に初回投与時や投与初期に出現しやすい傾向があります。

特に注意すべき副作用:失神(迷走神経反射)

ダポキセチンで見られる失神は、血圧低下による通常の起立性低血圧とは異なり、迷走神経反射によるものである点が特徴的です。具体的には以下のような特徴があります。

  • 急に立ち上がった時に起こりやすい
  • 服用後1〜3時間以内に集中して発生
  • 前駆症状(ふらつき、冷や汗、耳鳴り、視覚の暗転)を伴うことがある
  • 頓服・急速吸収型という薬理特性に関連

海外第III相試験では、30mgで約0.2%、60mgで約0.6%の頻度で失神が報告されています。他のSSRIでも稀に起こりうる副作用ですが、ダポキセチンは頓服型で急速に吸収されるため、この副作用が目立ちやすいと考えられています。

その他の副作用

  • 性機能への影響: 性欲減退、勃起不全、過度な射精遅延
  • 精神症状: 不安、睡眠障害、抑うつ症状(非常に稀だが自殺企図のリスクも報告あり)
  • 中止後症候群: 突然の服用中断により、めまい、感覚異常、不安、感情不安定などの離脱症状が生じる可能性

ポゼット®服用時の注意事項

日常生活での制限

ポゼット®を服用する際は、以下の点に注意が必要です。

  1. 飲酒の制限: 服用当日は飲酒を禁止(アルコールで失神リスクが増大)
  2. 運転・危険作業の制限: 服用後少なくとも6時間は運転や危険な作業を避ける(できればその日は終日避けるのが安全)
  3. 急な姿勢変化の回避: 服用後は急に立ち上がらないよう注意する
  4. 初回は低用量から: 必ず30mgから開始し、身体の反応を確認する

併用禁忌薬

以下の薬剤との併用は禁忌とされています。

  • 他のSSRI・SNRI・三環系抗うつ薬・MAOI: セロトニン症候群のリスク
  • 強力なCYP3A4阻害薬(ケトコナゾール、イトラコナゾール、リトナビルなど): 血中濃度上昇
  • チオリダジン: QT延長リスク

服用前には、使用中の薬を必ず医師に伝えてください。

当院での早漏治療の取り組み

当院では、早漏に対して倫理委員会の承認を得た観察研究として、SSRIおよびα1遮断薬による治療を提供しています。ダポキセチン(ポゼット®)のほか、パロキセチン、シロドシンなど、患者様の状態や希望に応じて最適な治療法を選択します。

治療開始前には、早漏診断票(PEDT)や早漏プロフィール(PEP)などの標準化された評価指標により、症状の重症度を客観的に評価します。治療開始後は、2週間後、1か月後、3か月後と定期的に効果と副作用を確認しながら、必要に応じて薬剤の種類や用量を調整していきます。

また、来院が難しい場合には、症状が安定していれば電話診療やオンライン診療での対応も可能です。患者様の生活スタイルに合わせた柔軟な診療を行っています。

よくある質問(FAQ)

Q1. ポゼット®は誰でも使えますか?

18歳以上で正常な同意能力を有する方が対象となりますが、以下に該当する方は使用できません:他のSSRIやMAOI等を常用している方、重篤な精神疾患や身体疾患(心・肝・腎機能障害など)を有する方、薬剤アレルギーの既往がある方など。医師による適切な診断と評価が必要です。

Q2. 効果はどのくらいで実感できますか?

服用後1〜2時間で血中濃度が最高となり、この時間帯に効果が最大となります。臨床試験では、射精までの時間が平均2.5〜3倍に延長することが報告されています。ただし、効果には個人差があります。

Q3. 毎日飲む必要がありますか?

いいえ。ポゼット®は性交の1〜3時間前に頓服する薬剤です。必要な時だけ服用するため、毎日飲む必要はありません。ただし、1日1回までとし、次回服用まで24時間空けることが必要です。

Q4. 副作用が心配です

最も多い副作用は吐き気(10〜20%)で、その他に下痢、頭痛、めまいなどがあります。特に注意が必要なのは失神(0.2〜0.6%)で、服用後1〜3時間以内に急に立ち上がった時などに起こりやすい傾向があります。初回は30mgから開始し、副作用の有無を確認しながら慎重に使用します。

Q5. バイアグラなどのED治療薬と一緒に使えますか?

理論的には併用可能ですが、初回は同時服用を避け、それぞれ単独で副作用を確認することを推奨します。併用する場合は、ポゼットを性交2時間前、PDE5阻害薬を1時間前に服用するなど、時間をずらすことで副作用のリスクを軽減できます。

Q6. 日本では承認されていないと聞きましたが、使用しても大丈夫ですか?

ポゼット®は日本では未承認ですが、海外では早漏治療薬として正式に承認されています。当院では倫理委員会の承認を得た観察研究として、患者様の同意のもとに適切な管理体制で処方を行っています。

Q7. 飲酒は可能ですか?

服用当日の飲酒は禁止です。アルコールにより失神のリスクが増大するため、服用日は飲酒を避けてください。

Q8. 車の運転はできますか?

服用後少なくとも6時間は運転や危険な作業を避けてください。できればその日は終日運転を控えることをお勧めします。

まとめ

早漏は多くの男性が抱える悩みですが、適切な治療によって改善が見込めます。ポゼット®(ダポキセチン)は、海外で早漏治療薬として承認されており、射精時間の延長効果が科学的に証明されています。

ただし、失神などの特徴的な副作用もあるため、医師の指導のもとで適切に使用することが大切です。日本では未承認薬であるため、当院では倫理委員会の承認を得た研究として、患者様の安全を最優先に考えながら治療を提供しています。

早漏でお悩みの方、性生活の満足度を高めたい方は、一人で悩まず、ぜひ専門医にご相談ください。当院では、患者様一人ひとりの状態に合わせた最適な治療法をご提案し、性生活の質の改善を目指してサポートしています。


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