性感染症の一つである梅毒は、生殖器に症状が出ることが一般的ですが、喉に症状が現れる「咽頭梅毒」というタイプもあります。この病気は珍しいものの、治療が遅れると進行し、健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。また、性感染症による咽頭感染には、淋菌やクラミジアが原因となる場合もあり、これらと区別することが重要です。本記事では、咽頭梅毒を中心に、その他の咽頭性感染症についても解説します。
咽頭梅毒の主な症状
咽頭梅毒は、一般的な喉の炎症や風邪と似ているため、気づきにくいことがあります。また、多くは無症状であるため、感染に気付かないケースも多々ありますが、次のような症状が続く場合は注意が必要です:
- 喉の痛みが長引く
普通の風邪や咽頭炎で治るはずの喉の痛みが1週間以上続く場合、咽頭梅毒の可能性を考慮する必要があります(1)。 - 喉に異常が見られる
喉を鏡で確認した際に、粘膜が剥がれたような状態(びらん)や白っぽい膜が見える場合があります。これらは通常の炎症とは異なる特徴です(2)。 - 声がかすれる(嗄声)
声が出しにくい、またはかすれた声が続く場合は注意が必要です。他の症状を伴うこともあります(3)。 - 喉の奥に特異な病変が現れる
喉の奥(中咽頭)に蝶の形をした病変や、白い弓状の病変が見られることがあります。これらは咽頭梅毒に特有の症状とされています(3)。 - 微熱や体のだるさ
喉の症状だけでなく、発熱や全身の倦怠感を伴う場合もあります(4)。
淋菌やクラミジアによる咽頭感染
咽頭性感染症は、梅毒だけでなく、淋菌やクラミジアが原因となることも多く報告されています。これらの感染症も、オーラルセックスによる感染が主な原因です。
- 淋菌性咽頭炎
淋菌が原因の咽頭感染は、症状がほとんど出ない場合もありますが、喉の痛みや腫れが現れることがあります。また、喉の腫れや赤みが強く、まれに膿が見られることもあります。 - クラミジア性咽頭炎
クラミジアによる咽頭感染はさらに症状が軽いことが多く、気づかれないまま放置されることがしばしばです。しかし、感染が進むと慢性的な喉の違和感や痛みが現れることがあります。
性感染症による性感染症を疑うべきタイミング
以下のような場合は、性感染症を疑い、医療機関を受診することをお勧めします。ただし、内科や耳鼻科などの性感染症の診療経験が乏しいところでは、性感染症の検査をされることは少なく、誤診に繋がることもあります。性感染症専門医のいる医療機関に相談するのが望ましいでしょう。なお、性感染症による咽頭炎では、むしろ無症状のことが多いため、症状がないからと言って、感染を否定できるものではありません:
- 喉の痛みが1週間以上続き、通常の治療で改善しない(1, 2)。
- 性的接触歴(特にオーラルセックス)がある場合(4, 5)。
- 喉の奥に異常が見られる、または痛みに加えて微熱や倦怠感を伴う(3, 6)。
咽頭感染の診断には、喉から検体を採取して行う核酸増幅検査(PCR検査)が有効です。梅毒だけでなく淋菌やクラミジアの有無も確認できます。ただし、梅毒に対するPCR検査は保険適用外であり、普及していません。梅毒の診断については、血液検査で確認するのが一般的です。
咽頭性感染症の治療と予防
咽頭性感染症は、いずれも適切な治療を受けることで完治可能です。
- 咽頭梅毒:ペニシリン系抗生物質が効果的で、治療後に症状はほとんど改善します(5)。
- 淋菌性咽頭炎:淋菌感染にはセフトリアキソンなどの抗生物質が使用されます。
- クラミジア性咽頭炎:クラミジア感染にはアジスロマイシンやドキシサイクリンが効果的です。
予防するためには:
- コンドームやデンタルダムを使用して感染リスクを下げる(4)。
- 性感染症のリスクがある場合は定期的に検査を受ける(6)。
- 喉の痛みや異常を感じた場合は早めに医療機関を受診する(7)。
咽頭梅毒に関するよくある質問
Q1: 咽頭梅毒はどのように感染しますか?
A: 咽頭梅毒は、主にオーラルセックスによって感染します。梅毒トレポネーマ菌が喉の粘膜に接触することで発症します。他の性感染症と同様に、感染リスクを減らすためには安全な性行為が重要です。
Q2: 咽頭梅毒の症状はどのくらいで現れますか?
A: 感染から約3週間後に症状が現れることが多いですが、個人差があります。喉の痛み、白っぽい膜、声のかすれなどが初期症状として現れることがあります。
Q3: 咽頭梅毒は自然に治りますか?
A: いいえ。咽頭梅毒は放置すると進行し、全身に影響を及ぼすことがあります。適切な抗生物質治療を受けることで完治が可能です。
Q4: 咽頭梅毒と風邪の違いは何ですか?
A: 咽頭梅毒は喉の痛みや声のかすれなど風邪と似た症状を示しますが、喉に白っぽい膜や特徴的な病変(蝶の形の病変)が見られることが多いです。風邪の治療で症状が改善しない場合は、性感染症の可能性を考慮する必要があります。
Q5: 咽頭梅毒は他人にうつりますか?
A: はい。感染者との性的接触を介して他人に感染する可能性があります。特にオーラルセックス中に感染リスクが高まります。感染を防ぐためには、性行為中にコンドームやデンタルダムを使用することが推奨されます。
Q6: 咽頭梅毒の診断にはどのような検査が必要ですか?
A: 咽頭の粘膜から採取した検体を用いた核酸増幅検査(PCR検査)や血液検査(梅毒トレポネーマ抗体検査)が主に用いられます。これにより正確な診断が可能です。
Q7: 咽頭梅毒は他の性感染症(淋菌やクラミジア)とどう違いますか?
A: 淋菌やクラミジアの咽頭感染も似た症状を引き起こしますが、症状が軽い場合が多く、放置されることがあります。梅毒は進行すると全身に広がる可能性があるため、早期発見が特に重要です。
参考文献
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