LOH症候群と仕事のパフォーマンス:テストステロン健診とプレゼンティズム対策

目次

1. LOH症候群とは?

LOH(Late-Onset Hypogonadism、遅発性性腺機能低下症)は、ストレスおよび加齢による男性ホルモン(テストステロン)の低下により、中高年男性に発症する疾患です。主な症状として性欲低下、疲労感、抑うつ症状、さらには心血管疾患のリスク上昇が挙げられ、男性の健康全般に深刻な影響を及ぼします。

テストステロンの減少は40歳を過ぎた頃から徐々に進行し、50歳代以降の男性の約30%が何らかのLOH症状を訴えるとされています。しかし、職場や家庭でのストレスが影響し、症状に気づかずに放置されるケースも多く、生活の質(QOL)だけでなく、仕事のパフォーマンスにも悪影響を与えることが問題視されています。

2. LOH症候群の主な症状

LOH症候群の症状は、性機能障害、身体的症状、精神的症状の3つに分類され、これらの症状が複合的に現れることが多いです。

主な症状

  • 身体的症状:疲労感、筋力低下、体脂肪の増加、骨密度の低下
  • 精神的症状:抑うつ、不安、集中力の低下、記憶力の低下
  • 性機能障害:性欲の低下、勃起不全(ED)、性的満足感の減少

AMSスコア表(Aging Male Symptoms Score)

以下の表は、LOH症候群の自己チェックに用いられる「AMSスコア」の項目です。各項目について、該当する症状の重症度を0(全くなし)~5(かなり重度)で自己評価してください。総合スコアが高いほど、LOH症候群の可能性が高くなります。

症状0(全くなし)1(軽い)2(中等度)3(やや重度)4(重度)5(かなり重度)
1. 総合的に調子が思わしくない
2. 関節や筋肉の痛み
3. ひどい発汗
4. 睡眠の悩み
5. 疲れやすい
6. いらいらする
7. 神経質になった
8. 不安感
9. からだの疲労や行動力の減退
10. 筋力の低下
11. 憂うつな気分
12. “絶頂期は過ぎた”と感じる
13. 力尽きた、どん底にいると感じる
14. ひげの伸びが遅くなった
15. 性的能力の衰え
16. 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少
17. 性欲の低下

この表を参考に、自己チェックを行ってみましょう。合計スコアが高いほどLOH症候群の可能性が高いことを示しますので、気になる症状があれば専門医にご相談ください。

3. LOH症候群の診断基準

テストステロン補充療法の適応基準

  • 血清総テストステロン値が250 ng/dL以下で、性欲低下や筋力低下、気分の落ち込みなどのLOHに関連する症状が認められる場合。
  • 血清総テストステロン値が250 ng/dL以上の場合には、さらに遊離テストステロン値を測定し、遊離テストステロン値が7.5 pg/mL以下であれば、テストステロン補充療法(TRT)を検討。

血液中のテストステロン値は、日内変動といって、時間帯によって数値が変化します。基本的には、テストステロン値は午前中に高く、夕方は数値が下がります。したがって、テストステロン値を調べる際は、午前中に採血を行なうことが推奨されています。この適応基準を満たした場合、テストステロン補充療法(TRT)を検討する必要があります。

4. LOH症候群とプレゼンティズム、仕事のパフォーマンスへの影響

近年、LOH症候群が職場でのパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかについて、注目が集まっています。特に、テストステロンの低下が、集中力や判断力、さらには意欲の低下を招くことが懸念されており、これにより職場での生産性や業務効率が低下するのではないかと考えられています。

また、LOH症候群と「プレゼンティズム」との関連性についても、最近になって研究が進められています。プレゼンティズムとは、出勤はしているものの、体調不良や精神的な不調により仕事に集中できず、実際の業務パフォーマンスが著しく低下している状態を指します。LOHがプレゼンティズムの要因の一つである可能性があるとして、企業や医療機関からの注目が集まっています。

現在のところ、LOHとプレゼンティズムの因果関係については明確な結論は出ていませんが、関連性があるのではないかと注目されており、さらなる研究が待たれているところです。

5. テストステロン補充療法(TRT)の効果と仕事への影響

テストステロン補充療法(TRT)は、LOH症候群による性機能障害や抑うつ症状を改善するだけでなく、仕事におけるパフォーマンスや集中力の向上にも効果があることが報告されています。TRTを行った患者の多くは、精神的な安定とエネルギーレベルの向上を実感しており、仕事への意欲や判断力が改善したという報告も多く見られます。

ただし、TRTには注意点もあります。前立腺の健康リスクや心血管系の合併症については、慎重に評価しながら治療を進める必要があります。そのため、TRTを考慮する際は、専門医との十分な相談のもとで行うことが推奨されます。

6. 個人のみならず、企業におけるテストステロン健診を

LOH症候群が職場全体のパフォーマンス低下を引き起こす可能性があることを考えると、企業単位での健康管理が非常に重要です。当院では、企業単位でのテストステロン健診の相談も承ります。社員の健康をサポートするプログラムを提供しています。特に以下のような従業員を対象に、テストステロン健診をお勧めしています。

  • 管理職や経営者層の方
  • 慢性的な疲労感や集中力低下を訴えている従業員
  • メンタルヘルスの問題が見られ、職場でのパフォーマンスに支障をきたしている方

企業全体の健康を支え、生産性の向上を目指すため、テストステロン健診を積極的にご活用ください。詳しい情報やご相談については、当院までお気軽にお問い合わせください。

7. まとめ

LOH症候群は、中高年男性に見られるテストステロンの低下によって引き起こされ、性機能障害のみならず、抑うつ症状、さらには職場でのパフォーマンスの低下と密接に関連していると考えられています。最新のガイドラインに基づく診断基準を用いることで、より正確な診断が可能となり、早期の治療介入が生活の質(QOL)や仕事のパフォーマンスの向上に寄与します。テストステロン補充療法(TRT)は、これらの症状を改善する効果があり、仕事におけるパフォーマンスや集中力を向上させる可能性もあります。

企業単位でのテストステロン健診を導入することで、社員の健康維持と職場全体のパフォーマンス向上が期待できるため、企業の健診プログラムに組み込むことをぜひご検討ください。詳細については、当院までお気軽にお問い合わせください。

8. 参考文献

  1. Araujo AB, et al. The clinical consequences of androgen deficiency in men. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92(11):3958-3965.
  2. LOH症候群診療の手引き, 改訂版, 2022年.
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  6. Vigen R, et al. Association of testosterone therapy with mortality, myocardial infarction, and stroke in men with low testosterone levels. JAMA. 2013;310(17):1829-1836.