性感染症のうち、尿道炎といえば、少し前までは「淋菌」と「クラミジア」が一般的でしたが、近年、これらに加えて新たに警戒すべき感染症がじわじわと増えてきています。それが「マイコプラズマ・ジェニタリウム」です。私たち大阪梅田紳士クリニックでは、淋菌、クラミジアに加え、このマイコプラズマ・ジェニタリウムを併せた三菌種による性感染症を「令和の三大尿道炎」として位置づけ、診療において特に注意を払っています。このコラムでは、マイコプラズマ・ジェニタリウムについて、詳しく解説していきます。
目次
マイコプラズマ・ジェニタリウムとは?
マイコプラズマ・ジェニタリウムは、性行為を通じて感染する非常に小さな細菌です。主に尿道や子宮頸管に炎症を引き起こすことが知られています。一般的に「マイコプラズマ」と聞くと、マイコプラズマ肺炎を連想する方も多いかもしれませんが、肺炎を引き起こす「マイコプラズマ・ニューモニエ」とは異なる種類です。マイコプラズマ・ジェニタリウムは性行為感染症(STI)の一種で、通常の風邪や肺炎とは関係がありません。
マイコプラズマ・ジェニタリウムの特徴として、他の細菌とは異なり細胞壁を持たないため、ペニシリン系の抗生物質が効かないという点が挙げられます。この性質が原因で、治療が難しく、耐性菌の出現が多いことも治療を複雑にしています。
近年のマイコプラズマ・ジェニタリウムの流行と認知拡大
もともと海外では性感染症として知られていたマイコプラズマ・ジェニタリウムでしたが、日本では、2022年6月に「トリコモナス/マイコプラズマ・ジェニタリウム同時核酸検出法」が保険収載されたことにより、ようやく診断のための検査が保険適用となりました【1】。これにより、医療機関での検査や診断がしやすくなったことで、マイコプラズマ・ジェニタリウムの認知が徐々に広がり、感染者数の増加が確認されています。
かつては、尿道炎といえば「淋菌」か「クラミジア」をチェックすれば十分とされていました。しかし、現在では、これに「マイコプラズマ・ジェニタリウム」も警戒すべき性感染症として加わったため、医療機関でもより慎重な検査が求められています。
マイコプラズマ・ジェニタリウムの主な症状と診断の難しさ
【男性の症状】
- 尿道炎:排尿時の痛みや灼熱感、尿道からの分泌物が見られることがあります。これらは、淋菌性尿道炎やクラミジア感染症と非常に似ており、症状だけでの区別は難しいです。
- 精巣上体炎:感染が進行すると、精巣上体(睾丸の裏にある組織)が腫れ、痛みを伴うことがあります。放置すると精子の通り道に炎症が広がり、不妊の原因となることもあります。
【女性の症状】
- 子宮頸管炎:異常なおりものや性行為時の痛み、下腹部の痛みが主な症状です。初期には軽い違和感程度しかないことも多く、気づかないうちに症状が進行することもあります。
- 骨盤内感染症(PID):放置すると骨盤内の臓器に炎症が広がり、重症化すると不妊や慢性的な骨盤痛の原因となります。
【無症状のケース】
男女ともに、マイコプラズマ・ジェニタリウムは無症状のまま進行することが多く、感染に気づかずパートナーに感染を広げてしまうリスクがあります。特に女性では無症状のまま長期間進行することが多いため、定期的な性感染症検査が推奨されます【2】。
治療が難しい理由:抗生物質耐性の問題
マイコプラズマ・ジェニタリウムは、抗生物質に対する耐性を持つことが多く、治療が難しいケースが多々あります。特に、海外でのいくつかの文献においては、アジスロマイシンやモキシフロキサシンに対する耐性菌の出現が確認されており、治療の成功率が低下しているのが現状です【3】。
例えば、クラミジア性尿道炎の治療にはアジスロマイシンが使用されることが一般的ですが、近年の研究ではマイコプラズマ・ジェニタリウムに対するアジスロマイシンの治療成功率は約60%にとどまることが報告されています【4】。また、モキシフロキサシンは一部の国では治療に使用されていますが、日本では尿道炎に対する保険適応がないため、治療選択肢が限られています【5】。
マイコプラズマ・ジェニタリウムの診断と検査方法
マイコプラズマ・ジェニタリウムの診断には、分子レベルでの検査が必要です。現在、日本では「核酸増幅法(NAAT)」や「PCR検査」が主に使用されており、尿や分泌物から菌の遺伝子を検出することで診断を行います。この方法は感度が高く、正確な診断が可能ですが、結果が出るまでに1週間ほど時間がかかることもあり、診断までのタイムラグが問題になることもあります。
また、抗生物質に耐性を持つ菌が増えているため、薬剤耐性検査を行うことができれば、治療において非常に有用です。これにより、耐性菌に対して有効な抗生物質を適切に選択できますが、薬剤耐性検査はまだ一般的ではなく、保険適応もないため高額である上、限られた施設でしか行えないのが現状です【6】。
治療期間が長引くマイコプラズマ・ジェニタリウム
当院のデータによると、マイコプラズマ・ジェニタリウムの平均治療期間は驚くことに 70.1日(クラミジアの約5倍)です。さらに、最長で 526日(約1年半)にも及んだケースがあり、治療の長期化が患者様にとって大きな負担となることがわかります。
また、治療のための平均投薬期間は 21.0日で、アジスロマイシン単回投与で治療可能なクラミジア尿道炎と比較すると、投薬期間は約20倍に達することになります。これは、マイコプラズマ・ジェニタリウムが薬に対する耐性を持っていることから、長期間の投薬が必要であったり、複数の抗生剤を併用したり、切り替えて投与する必要があったり、また耐性が少なく効果的な薬を見つけるまでに時間がかかることなどが原因です。
マイコプラズマ・ジェニタリウムの予防と早期治療の重要性
マイコプラズマ・ジェニタリウムは無症状のまま進行することが多く、治療が困難になることから、感染の予防が非常に重要です。最も効果的な予防策は、コンドームの使用です。これにより、性行為を通じた感染リスクを大幅に減らすことができます。また、性感染症のリスクがある場合、定期的に検査を受けることも推奨されます。
大阪梅田紳士クリニックでは、マイコプラズマ・ジェニタリウムを含む各種性感染症の診断と治療が可能です。尿道炎などの症状がある場合、またはパートナーが感染している可能性がある場合は、早めにご相談ください。経験豊富な専門医が、適切な検査と治療法を提供いたします。
まとめ:早期診断と治療が健康を守るカギ
マイコプラズマ・ジェニタリウムは、淋菌やクラミジアに比べて治療が難しく、耐性菌の増加や診断の難しさからも問題が多い性感染症です。淋菌もクラミジアも、それぞれ異なる治療法が必要なため、早期の正確な診断と適切な抗生剤の選択が不可欠です。感染の予防と早期発見が、健康を守るための重要な鍵となります。
当院では、マイコプラズマ・ジェニタリウムを含む尿道炎の治療は祝日以外、土・日曜も含むすべての曜日で対応できる態勢を整えております。医師・スタッフは全員男性ですから、気兼ねなく受診していただくことが可能です。
尿道炎の診療受付時間
月~金曜:10:45~13:00・14:30~19:30
土曜:10:00~13:00・14:30~17:30
日曜:13:30~17:30
※尿検査がございますので、排尿が可能な状態でご来院ください。
※祝日は休診です。振替休日がある場合はそちらのみ休診となります。
参考文献
- Lau, A. et al. The Efficacy of Azithromycin for the Treatment of Genital Mycoplasma genitalium: A Systematic Review and Meta-analysis. Clinical Infectious Diseases. 2015.
- Read, T. et al. Outcomes of Resistance-guided Sequential Treatment of Mycoplasma genitalium Infections: A Prospective Evaluation. Clinical Infectious Diseases. 2018.
- Li, Y. et al. Meta-analysis of the efficacy of moxifloxacin in treating Mycoplasma genitalium infection. International Journal of STD & AIDS. 2017.
- Clarke, E. et al. Efficacy of Minocycline for the Treatment of Mycoplasma genitalium. Open Forum Infectious Diseases. 2023.
- Bradshaw, C. et al. New Horizons in Mycoplasma genitalium Treatment. The Journal of Infectious Diseases. 2017.
- Sweeney, E. et al. Mycoplasma genitalium: enhanced management using expanded resistance-guided treatment strategies. Sexual Health. 2022.