目次
1. 前立腺癌術後の性機能障害とは
前立腺癌の治療後、特に根治的前立腺摘除術(RP)を受けた患者の多くが直面するのが性機能障害です。この障害は、単に身体的な問題にとどまらず、患者の心理やパートナーとの関係、さらには日常生活全般に大きな影響を及ぼします。勃起不全(ED)は最も一般的な症状であり、特に術後の早期から適切な対応が求められます。
性機能障害の主な原因
- 陰茎神経の損傷:勃起を制御する神経が手術中に損傷を受けることで、勃起機能が低下します。神経温存術が行われた場合でも、完全な回復には時間を要することがあります。
- 血流の低下:手術後、陰茎海綿体への血流が減少し、勃起を維持するための十分な血液供給が得られない状態になります。
- 心理的影響:性機能の低下は患者の自己肯定感を損ない、パートナーシップにも影響を与える可能性があります。
2. 性機能回復リハビリテーションの重要性
リハビリテーションの必要性
前立腺癌術後に発生する性機能障害は、時間の経過とともに悪化する場合があります。これは、陰茎海綿体が使用されないことによる「使わないことによる萎縮」(disuse atrophy)が進行し、血管や組織の機能がさらに低下するためです。そのため、術後早期からのリハビリテーションが重要です。
リハビリテーションは以下の効果をもたらします:
- 血流改善:陰茎への血液供給を促し、組織の萎縮を防ぎます。
- 神経再生の支援:損傷を受けた神経の自然治癒を助けます。
- 心理的負担の軽減:治療に積極的に取り組む姿勢が患者の自信を回復させます。
リハビリテーションの方法
- PDE5阻害薬の使用:バイアグラ®やシアリス®などの薬剤が一般的です。陰茎への血流を一時的に改善するため、術後の回復を助ける効果が期待されます。
- 陰茎注射療法:血管拡張作用のある薬剤を陰茎に直接注射する方法です。即効性が期待されます。
- 陰圧勃起補助具(VED):物理的に陰茎に血液を引き込み、勃起を補助する装置です。
- 骨盤底筋体操:骨盤底筋を鍛えるエクササイズで、性機能を支える筋力を向上させます。
3. 低強度体外衝撃波治療(LI-ESWT)の可能性
低強度体外衝撃波治療(LI-ESWT)は、前立腺癌術後の性機能障害を根本的に改善するための新しい治療法です。非侵襲的な手法であり、血流改善や組織修復を目的としています。
LI-ESWTの仕組み
- 血管新生の促進:衝撃波が陰茎海綿体の細胞を刺激し、新しい血管を形成する「血管新生」を促します。
- 組織修復と細胞再生:衝撃波が幹細胞を活性化し、損傷した神経や組織を修復します。
- 長期的な効果:他の治療法が一時的な効果にとどまるのに対し、LI-ESWTは持続的な機能改善を目指しています。
4. 当院での性機能リハビリテーションプログラム
当院では、前立腺癌術後の性機能障害を改善するための包括的なプログラムを提供しています。例えば、低強度体外衝撃波治療(LI-ESWT)だけでなく、低用量のPDE5阻害剤の連日服用も併せることで、効果が高まる可能性があります。併用薬の問題で内服治療が困難な症例では、陰圧勃起補助具を使った自宅でのトレーニングも組み合わせるというケースもあります。その他、当院では、観察研究という形で、再生医療としての幹細胞培養上清液治療も扱っています。
5. 今後の課題と展望
LI-ESWTは、多くの可能性を秘めた治療法ですが、前立腺癌術後の陰茎リハビリテーションについては、さらなる大規模な臨床試験が必要です。
6. まとめ
前立腺癌術後の性機能障害にお悩みの方へ。低強度体外衝撃波治療(LI-ESWT)は、安全かつ効果的な治療法として、根本的な改善を目指します。当院では、包括的なリハビリテーションプログラムを通じて、患者様の健康と生活の質向上をサポートしています。ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
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