「健康診断で引っかかったけれど、まだ大丈夫だろう」「お腹が出てきたが、まだ動けるから問題ない」。そんな風に考えている男性の方は少なくないでしょう。しかし、男性の肥満は単なる見た目の問題ではありません。性機能の低下、男性ホルモンの減少、そして将来の重篤な疾患リスクの増大など、様々な健康障害を引き起こす可能性があります。
大阪梅田紳士クリニックで多くの男性患者様を診察する中で、肥満が原因となって複数の健康問題を抱える方が急増していることを実感しています。本コラムでは、男性の肥満がもたらす具体的な健康リスクと、その科学的根拠について詳しく見ていきましょう。
男性肥満の現状と深刻化する問題
日本人男性の肥満率の推移
厚生労働省の国民健康・栄養調査(2022年)によると、BMI25以上の肥満男性の割合は20歳代で21.8%、30歳代で28.6%、40歳代で35.5%、50歳代で37.7%と、年齢とともに上昇傾向にあります(1)。特に働き盛りの30〜50代男性において肥満率が高く、これは長時間労働、不規則な食生活、運動不足といった現代社会特有の生活習慣が影響していると考えられます。
内臓脂肪型肥満の特徴
男性の肥満は「内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)」が特徴的です。これは皮下脂肪よりも内臓周囲に脂肪が蓄積するタイプで、女性に多い皮下脂肪型肥満と比べて健康リスクが格段に高いことが知られています。ウエスト周囲径が85cm以上(女性は90cm以上)の場合、内臓脂肪型肥満のリスクが高いとされています(2)。
男性肥満が引き起こす性機能への深刻な影響
ED(勃起不全)のリスク増大
肥満男性にとって最も身近で深刻な問題の一つがEDです。複数の大規模研究により、BMIの増加とED発症率の間には明確な相関関係があることが示されています。
マサチューセッツ男性加齢研究では、BMI28以上の男性は正常体重の男性と比較してED発症リスクが1.5倍高いことが報告されています(3)。さらに、BMI30以上の高度肥満男性では、そのリスクは2倍以上に跳ね上がります。
肥満がEDを引き起こすメカニズム
肥満がEDを引き起こす主なメカニズムとしては、次のようなものがあります。
- 血管機能の悪化:内臓脂肪から分泌される炎症性サイトカインが血管内皮機能を障害し、陰茎海綿体への血流を阻害
- テストステロン値の低下:脂肪組織でのアロマターゼ活性増加により、男性ホルモンが女性ホルモンに変換される
- インスリン抵抗性:糖代謝異常が血管機能や神経機能に悪影響を与える
- 心理的要因:体型への自信喪失がパフォーマンス不安を招く
テストステロン低下と男性更年期障害
肥満とテストステロンの逆相関関係
肥満は男性ホルモン(テストステロン)の低下と密接に関連しています。European Male Aging Studyの大規模調査では、BMIが1単位増加するごとに、総テストステロン値が約2%低下することが示されています(4)。
特にウエスト周囲径が102cm以上の男性では、正常体重の男性と比較してテストステロン値が約40%も低下していることが報告されています。これは単なる数値の変化ではなく、以下のような具体的な症状として現れます:
テストステロン低下による症状
- 身体症状:疲労感、筋力低下、骨密度減少、代謝低下
- 精神症状:やる気の低下、集中力の欠如、うつ傾向、イライラ
- 性機能症状:性欲減退、勃起不全、射精障害
悪循環のメカニズム
肥満とテストステロン低下は悪循環を形成します。テストステロンの低下は筋肉量の減少と基礎代謝の低下を招き、さらなる体重増加につながります。医学的には「性腺機能低下症候群」に分類され、適切な治療介入が必要な病態として認識されています。
生活習慣病リスクの飛躍的増大
メタボリックシンドロームの高いリスク
内臓脂肪型肥満は、メタボリックシンドロームの中核をなす病態です。日本人男性を対象とした研究では、ウエスト周囲径85cm以上の男性で以下の危険性が著明に増加することが示されています(5)。
- 糖尿病発症リスク:3.2倍
- 高血圧発症リスク:2.8倍
- 脂質異常症発症リスク:4.1倍
心血管疾患リスクの増大
肥満男性における心血管疾患のリスクは深刻です。Framingham Heart Studyの長期追跡調査では、BMI30以上の男性は正常体重の男性と比較して以下の危険性が明らかに増加することが分かっています(6)。
- 心筋梗塞リスク:2.3倍
- 脳梗塞リスク:1.8倍
- 心房細動リスク:3.1倍
睡眠時無呼吸症候群との関連
肥満男性に多発する睡眠障害
当院でも頻繁に診療する睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、肥満男性に特に多い疾患です。BMI30以上の男性では、SASの有病率が著しく高いことが報告されています(7)。
SASが与える多面的な健康影響
- 日中の眠気と集中力低下:仕事の効率性や安全性に直接影響
- 高血圧の悪化:夜間の低酸素状態が血圧上昇を招く
- テストステロンのさらなる低下:睡眠の質の悪化がホルモン分泌に悪影響
- ED症状の増悪:睡眠不足と低酸素状態が性機能を悪化
がんリスクの増加
肥満関連がんのエビデンス
世界がん研究基金(WCRF)の報告によると、肥満は13種類のがんのリスク因子として認定されています。特に男性では以下のがんの発症リスクが明らかに上昇します。
- 大腸がん:BMI5単位増加ごとにリスク1.3倍
- 腎細胞がん:BMI5単位増加ごとにリスク1.25倍
- 前立腺がん(進行性):BMI5単位増加ごとにリスク1.15倍(8)
精神的健康への影響
うつ病リスクの増加
肥満男性では、うつ病の発症リスクが1.5〜2倍高いことが複数の研究で示されています(9)。これは以下の要因が複合的に作用した結果と考えられます。
- 生理学的要因:炎症性サイトカインの増加、テストステロン低下
- 心理社会的要因:体型への不満、自己効力感の低下
- 行動的要因:活動量の低下、社会的孤立
科学的根拠に基づく肥満治療の必要性
体重減少による健康改善効果
幸い、適切な体重減少により多くの健康問題は改善可能です。Look AHEAD研究では、糖尿病患者において5〜10%の体重減少で以下の改善が認められました(10)。
- HbA1c値の改善:平均0.6%低下
- 血圧の改善:収縮期血圧平均5mmHg低下
- HDLコレステロールの上昇:平均7%増加
ED改善に必要な体重減少
性機能の改善に関しては、体重の5〜10%減少でも有意な改善効果が期待できます。イタリアの研究では、BMI30以上のED患者において平均15kgの体重減少により、約30%の患者でED症状の完全な改善が認められました(11)。
男性の肥満は、医療介入が必要な重要課題です
男性の肥満は、見た目だけの問題ではありません。ED(勃起機能障害)やテストステロンの低下、睡眠時無呼吸症候群、生活習慣病など、心身にさまざまな悪影響を及ぼします。さらに放置すると、メンタルの不調や社会生活への影響にもつながることがあります。
大阪梅田紳士クリニックでは、EDや男性更年期障害の診療を通じて、背景に肥満が関係していると判断された場合には、医療法人内の大阪梅田健美クリニックでの医療ダイエットをご案内しています。
健美クリニックでの医療ダイエットとは?
健美クリニック | 大阪・梅田にある糖尿病内科・生活習慣病治療クリニック
大阪梅田健美クリニックでは、糖尿病を中心とした生活習慣病に対する保険診療と、GLP-1受容体作動薬(マンジャロ®など)を用いた自費診療による医療ダイエットの両方を提供しています。
保険診療の対象となるのは、高血糖や高血圧、脂質異常症など、明確な疾患がある場合に限られます。一方で、まだ診断基準には至らない肥満や、健康診断で「要経過観察」とされた方、本気で体重を減らしたい方には、自由診療でのダイエット治療をご案内しています。
なお、糖尿病以外を目的としたGLP-1受容体作動薬の使用は、すべて自費診療の扱いとなります。当院では医学的評価に基づき、安全性と有効性を確認しながら治療を進めています。
医療ダイエットの主な特徴
- 医学的評価:血液検査や体組成分析を通じて、健康状態と肥満の背景を詳しく把握
- 薬物療法:必要に応じて、GLP-1受容体作動薬(マンジャロ®など)を使用し、食欲抑制や代謝改善を図ります
- 食事・生活習慣のアドバイス:医師の診察を通じて、ライフスタイルに合わせた無理のない改善提案を行います
- 継続的なフォローアップ:体重や体調の変化を確認しながら、必要に応じてプランを調整します
極端な食事制限や過剰な運動に頼ることなく、医学的に安全で現実的な体重管理を目指します。
紳士クリニックからの紹介と連携体制
当院での診察において、肥満がEDや男性更年期障害の一因と考えられる場合には、健美クリニックでの治療を提案させていただくことが可能です。両クリニックは徒歩数分の距離にあり、情報共有体制が整っているため、紹介後もスムーズに一貫した治療を受けていただけます。
また、テストステロン補充療法やED治療と医療ダイエットを並行して行うことで、相乗的な効果が得られ、より確実な改善につながるケースも多くあります。
「まだ大丈夫」は、健康を遠ざける第一歩かもしれません
体重の増加に気づきながらも対策を先延ばしにしてしまう方は少なくありません。しかし、肥満による健康リスクは年齢とともに確実に高まっていきます。EDや疲労感、気分の落ち込みといった症状の背後に、肥満が隠れていることもあります。
まずは大阪梅田紳士クリニックで、現在の健康状態を一緒に確認しましょう。必要に応じて、健美クリニックでの医療ダイエットをご案内いたします。
私たちは、体重を落とすことを目的とするだけでなく、「人生の質」を取り戻す医療を提供しています。
参考文献
- 厚生労働省. 令和4年国民健康・栄養調査結果の概要. 2023.
- 日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2022. 2022.
- Feldman HA, et al. Impotence and its medical and psychosocial correlates: results of the Massachusetts Male Aging Study. J Urol. 1994;151(1):54-61.
- Tajar A, et al. Characteristics of secondary, primary, and compensated hypogonadism in aging men: evidence from the European Male Ageing Study. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95(4):1810-8.
- Examination Committee of Criteria for ‘Obesity Disease’ in Japan. New criteria for ‘obesity disease’ in Japan. Circ J. 2002;66(11):987-92.
- Wilson PW, et al. Overweight and obesity as determinants of cardiovascular risk: the Framingham experience. Arch Intern Med. 2002;162(16):1867-72.
- Peppard PE, et al. Increased prevalence of sleep-disordered breathing in adults. Am J Epidemiol. 2013;177(9):1006-14.
- World Cancer Research Fund. Diet, nutrition, physical activity and cancer: a global perspective. 3rd ed. 2018.
- Luppino FS, et al. Overweight, obesity, and depression: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Arch Gen Psychiatry. 2010;67(3):220-9.
- Wing RR, et al. Benefits of modest weight loss in improving cardiovascular risk factors in overweight and obese individuals with type 2 diabetes. Diabetes Care. 2011;34(7):1481-6.
- Esposito K, et al. Effect of lifestyle changes on erectile dysfunction in obese men: a randomized controlled trial. JAMA. 2004;291(24):2978-84.