SAS(睡眠時無呼吸症候群)とED・夜間頻尿の深い関係

— 泌尿器科専門医が解説するメカニズムと治療の考え方 —

【執筆者情報】執筆者:松岡 悠大(Matsuoka Yudai) 泌尿器科専門医 大阪梅田紳士クリニック 院長
共同執筆者:平山 尚(Hirayama Takashi)医師 医療法人奏仁会 理事長
保有資格:泌尿器科専門医、総合内科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、透析専門医、抗加齢専門医、日本医師会認定産業医
専門分野:EDを含む性機能障害、AGA、性感染症、男性不妊、睡眠時無呼吸症候群、男性更年期障害、生活習慣病、医療ダイエット、再生医療

「最近、夜中に何度もトイレで目が覚める」「ED(勃起不全)が気になり始めた」——こうした悩みを、「年のせいだろう」と自己解決してしまっていませんか?

実は、こうした症状の背景に睡眠時無呼吸症候群(SAS)が隠れているケースは、臨床の現場でも少なくありません。大阪梅田紳士クリニックでも、EDや夜間頻尿を主訴に来院された患者さんの中に、SASの合併が確認されたケースを複数経験しています。

本コラムでは、SASが泌尿器科症状とどのように関係するのか、そのメカニズムと治療の考え方について、泌尿器科専門医の立場からわかりやすく解説します。

1. SAS(睡眠時無呼吸症候群)とは?泌尿器科医が注目する理由

SASとは、睡眠中に気道が狭くなったり閉塞したりすることで、呼吸が止まる、または浅くなる状態が繰り返される疾患です。代表的な症状として、いびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛、熟睡感の欠如などがあります。

無呼吸が繰り返されると、身体は間欠的な低酸素状態と覚醒反応を何度も経験します。その結果、交感神経の持続的な緊張、血圧上昇、酸化ストレス増大、血管内皮機能障害などが引き起こされます。日本睡眠学会が監修する「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」においても、特に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、生活習慣病・心血管疾患と密接に関連する重要な疾患として位置づけられています。[1]

泌尿器科の視点から重要なのは、勃起機能や排尿機能が血流・自律神経・ホルモンバランス・睡眠の質と深く関わっているという点です。SASによる影響はこれらすべてに及ぶため、EDや夜間頻尿といった泌尿器科症状として初めて表出することがあります。[3,4]

2. SASと勃起不全(ED)の関係

EDとは、満足な性交を行うのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態を指します。国際的な疫学データによれば、OSA患者の約半数前後にEDの合併が認められるとする報告もあり、両疾患の関連性は複数のメタアナリシスでも確認されています。[3,4,5]

2-1.血管内皮機能障害と一酸化窒素(NO)の低下

勃起のメカニズムを簡単に説明すると、副交感神経の働きにより陰茎海綿体の血管が拡張し、血液が流入することで硬くなります。この際に重要な役割を果たすのが、一酸化窒素(NO)による血管拡張です。

SASによる間欠的な低酸素状態は酸化ストレスを増大させ、NOの産生・利用効率を低下させます。その結果、陰茎血管の拡張が不十分となり、EDが起こりやすくなると考えられています。[1,3,4]

また、EDは単に「陰茎の問題」ではなく、全身の血管内皮機能を反映するサインとも言われます。SASに加えて、肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病が重なると、EDのリスクはさらに高まります。

2-2.睡眠の質とテストステロンの関係

テストステロン(男性ホルモン)の分泌は、睡眠と深く関係しています。特に深い睡眠(ノンレム睡眠)の時間帯にテストステロン分泌が活発になるため、SASによって睡眠が繰り返し分断されると、テストステロンの分泌サイクルが乱れる可能性があります。[6]

ただし、SASとテストステロン低下の関係は単純ではありません。肥満・加齢・代謝異常・生活習慣なども大きく影響するため、「SASを治療すれば必ずテストステロンが回復する」とは断定できません。[6] 睡眠の質の改善と、生活習慣病・肥満の総合的な管理が重要です。

3. SASと夜間頻尿・排尿障害の関係

「夜中に何度もトイレに起きる」——この夜間頻尿は、前立腺肥大症や過活動膀胱だけでなく、SASによっても引き起こされることがあります。日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会が編集した「夜間頻尿診療ガイドライン第2版」でも、睡眠障害が夜間頻尿の重要な背景因子として位置づけられています。[2]

3-1.心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の過剰分泌

SASでは、睡眠中に無呼吸が起きるたびに胸腔内が強い陰圧状態になります。これにより心臓に戻る静脈血量が増えたような状態が作り出され、体は「水分が多い」と誤認し、利尿ホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)を過剰に分泌します。[7]

本来、夜間は尿量が減るよう身体が調節していますが、ANPの過剰分泌によってこの調節が乱れ、夜間の尿量が増えてしまうのです。複数の研究で、CPAP治療によってこの夜間多尿が改善することが報告されています。[8,9,10]

3-2.中途覚醒による「尿意の自覚」

SASでは無呼吸に伴って何度も睡眠が浅くなるため、膀胱に尿がわずかしか溜まっていない段階でも尿意を感じやすくなります。

つまり、SASによる夜間頻尿には「実際の夜間尿量が増える(ANP過剰分泌)」と「眠りが浅くなり尿意に気づきやすくなる(中途覚醒)」という、2つの異なるメカニズムが関与しています。[2,8-10]

4. 前立腺肥大症(BPH)とSASの相互作用

50代以降の男性に多い前立腺肥大症は、排尿困難・残尿感・頻尿・夜間頻尿を引き起こします。しかし、前立腺肥大症の治療をしても夜間頻尿だけがなかなか改善しない場合、背景にSASや睡眠障害が潜んでいる可能性があります。

前立腺肥大症による「尿の出にくさ・残尿」に、SASによる「夜間尿量増加・中途覚醒」が重なることで、夜間頻尿がより顕著に現れるケースがあります。[2,8-10] 当院でも、前立腺肥大症の治療をしながら夜間頻尿だけが残存し、SASの評価・治療を追加したことで症状が改善した症例を経験しています。

5. SASと泌尿器科症状の関係:まとめ

症状SASが関与する主なメカニズム治療アプローチ
勃起不全(ED)血管内皮機能障害・NO産生低下・テストステロン低下・交感神経亢進CPAP + ED治療薬 + 生活習慣改善
夜間頻尿ANP過剰分泌による夜間尿量増加・中途覚醒による尿意の自覚CPAP + 前立腺治療 + 過活動膀胱治療
性欲低下・倦怠感睡眠分断によるテストステロン分泌サイクルの乱れ・疲労蓄積CPAP + 肥満・生活習慣病管理

6. SAS治療(CPAP)による泌尿器症状の改善

SASの代表的な治療法であるCPAP(持続陽圧呼吸療法)は、睡眠中に鼻や口のマスクから一定の空気圧を送り、気道が閉塞しないようにする治療です。[1]

夜間頻尿への効果

CPAP治療による夜間頻尿の改善は、複数の研究で確認されています。[8,9,10] ANP分泌の正常化と、中途覚醒の減少が主なメカニズムと考えられており、前立腺治療を補完する形でCPAPが有効なケースがあります。

EDへの効果

CPAPによって性機能や性満足度の改善がみられる可能性はありますが、CPAP単独でEDが完全に改善するとは限りません。OSA患者を対象としたランダム化試験でも、CPAP単独のED改善効果については断定的な結論に至っていません。[5]

ED改善のためには、CPAP治療と並行して、ED治療薬の使用・生活習慣の改善・肥満や高血圧・糖尿病・脂質異常症などの管理を組み合わせることが重要です。

7. 大阪梅田紳士クリニックでのアプローチ

当院では、EDや夜間頻尿を訴えて来院された患者さんに対し、症状だけを切り取るのではなく、背景にある全身状態・生活習慣・睡眠の質までを含めた総合的な診療を大切にしています。

具体的には、初診時のカウンセリングで以下の点を丁寧に確認しています。

  • いびきや日中の眠気、起床時の頭痛など、SASを示唆する症状の有無
  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病の合併
  • 夜間排尿回数と尿量のパターン(夜間多尿か、膀胱容量の問題か)
  • ホルモンバランスや精神的ストレスの影響

SASが疑われる場合には、院内での簡易検査や精密検査を実施し、診断がついた場合はCPAP治療も当院で行うことが可能です。ED治療・夜間頻尿・前立腺治療・SAS治療を、ひとつのクリニックで総合的に管理できる体制を整えています。

男性のデリケートなお悩みを、プライバシーに配慮した環境で気兼ねなく相談できるクリニックとして、お一人で抱え込まずにご相談ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. いびきが目立たなくてもSASの可能性はありますか?

はい、あります。いびきが目立たなくても、日中の強い眠気・起床時の頭痛・熟睡感の欠如・夜間頻尿・肥満・高血圧などがある場合は、SASの評価を検討する価値があります。体型や症状の軽重だけで判断せず、気になる症状があれば相談ください。

Q2. CPAP治療を始めれば、ED治療薬は不要になりますか?

CPAP治療で睡眠の質や全身状態が改善し、EDにもプラスに働くことはあります。ただし、CPAP単独でEDが完全に解消するとは限りません。ED治療薬・生活習慣改善・生活習慣病の管理を組み合わせることで、より効果的な改善が期待できます。

Q3. 水分を控えても夜間頻尿が改善しません。なぜですか?

夜間頻尿の原因がSASや睡眠障害にある場合、水分摂取を制限するだけでは改善が難しいことがあります。夜間尿量が本当に増えているのか、膀胱容量の問題か、眠りが浅くて尿意に気づきやすいのかを正確に見極めることが重要です。ご自身で判断せず、専門医への相談をお勧めします。

Q4. SASと診断されましたが、前立腺の検査も必要ですか?

50代以降の男性では、SASと前立腺肥大症の両方が夜間頻尿に関与していることがあります。尿の勢いが弱い・残尿感・頻尿・夜間に何度も起きるといった症状があれば、泌尿器科での評価もあわせてお受けになることをお勧めします。

Q5. 太っていなくてもSASになりますか?

はい。肥満はSASの重要なリスク因子ですが、顎が小さい・気道が元々狭い・扁桃肥大・飲酒習慣・加齢による筋弛緩なども原因となります。体型だけで判断せず、症状に注目することが大切です。

まとめ

SAS(睡眠時無呼吸症候群)は、EDや夜間頻尿といった泌尿器科症状と多面的なメカニズムで関連しています。

  • EDは、血管内皮機能障害・NO産生低下・テストステロン分泌の乱れを介して悪化する
  • 夜間頻尿は、ANPの過剰分泌による夜間尿量増加と、中途覚醒による尿意の自覚によって起こる
  • 前立腺肥大症との合併により、症状がより顕著になることがある
  • CPAP治療は特に夜間頻尿に対して有効なことが多く、EDへは複合的なアプローチが有効

「年のせい」「前立腺のせい」と思っていた症状の背景に、睡眠の問題が隠れていることがあります。当院では、ED・夜間頻尿・排尿障害の背景を総合的に評価し、必要に応じてSAS検査・CPAP治療・ED治療薬・生活習慣改善指導までを一貫して提供しています。

夜の休息と、日中の活力、そして男性としての自信を取り戻すために——EDや夜間頻尿でお悩みの方は、まず一度ご相談ください。

参考文献

[1] 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会 編. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020.
[2] 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会 編. 夜間頻尿診療ガイドライン 第2版. リッチヒルメディカル, 2020.
[3] Budweiser S, Enderlein S, Jörres RA, et al. Sleep apnea is an independent correlate of erectile and sexual dysfunction. J Sex Med. 2009;6(11):3147-3157.
[4] Kellesarian SV, Malignaggi VR, Feng C, Javed F. Association between obstructive sleep apnea and erectile dysfunction: a systematic review and meta-analysis. Int J Impot Res. 2018;30(3):129-140.
[5] Pascual M, de Batlle J, Barbé F, et al. Erectile dysfunction in obstructive sleep apnea patients: A randomized trial on the effects of continuous positive airway pressure. PLoS One. 2018;13(8):e0201930.
[6] Wittert G. The relationship between sleep disorders and testosterone in men. Asian J Androl. 2014;16(2):262-265.
[7] Krieger J, Laks L, Wilcox I, et al. Atrial natriuretic peptide release during sleep in patients with obstructive sleep apnoea before and during treatment with nasal continuous positive airway pressure. Clin Sci (Lond). 1989;77(4):407-411.
[8] Margel D, Shochat T, Getzler O, Livne PM, Pillar G. Continuous positive airway pressure reduces nocturia in patients with obstructive sleep apnea. Urology. 2006;67(5):974-977.
[9] Miyauchi Y, Okazoe H, Okujyo M, et al. Effect of the continuous positive airway pressure on the nocturnal urine volume or night-time frequency in patients with obstructive sleep apnea syndrome. Urology. 2015;85(2):333-336.
[10] Vrooman OPJ, van Balken MR, Nocturnal Polyuria Study Group, et al. The effect of continuous positive airway pressure on nocturia in patients with obstructive sleep apnea syndrome. Neurourol Urodyn. 2020;39(4):1124-1130.